預貯金の仮払い制度(民法909条の2)|遺産分割前に1金融機関150万円まで

2019年7月施行の預貯金仮払い制度を、メガバンク・ゆうちょ・地方銀行の運用差含めて解説。家庭裁判所を経由せず、1金融機関最大150万円まで遺産分割前に引き出せる仕組みと必要書類を整理します。

この記事の結論

口座凍結後でも、1金融機関あたり「相続開始時残高×法定相続分×1/3、最大150万円」まで、相続人が単独で払い戻しを受けられます。葬儀費用・直近の生活費に活用できますが、後の遺産分割で差し引かれます。

更新日
2026-05-18
対象者
故人の口座が凍結され、葬儀費用や直近の生活費が必要な相続人
手続き先
故人が口座を持っていた各金融機関の窓口
必要書類
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式(または法定相続情報一覧図)、相続人全員の戸籍謄本、払戻しを請求する相続人の印鑑証明書、払戻しを請求する相続人の本人確認書類、金融機関所定の仮払い申請書(書式は金融機関による)

編集方針

本記事は、法務省・国税庁・厚生労働省・日本年金機構・全国健康保険協会・各市区町村の公式情報を引用源として、死後ナビ編集部が中立的に整理しました。 記事内の数値・期限・必要書類は、ページ末尾の「参照した公式情報」に記載した一次情報をご確認のうえ、最終的な手続き判断は役所・法務局・税務署・弁護士・司法書士・税理士などの専門家に必ずご確認ください。

家族が亡くなると、銀行は通常、訃報を確認した時点で故人の口座を凍結します。これは相続人間のトラブル防止のための実務運用です。しかし、葬儀費用(平均150〜200万円)、入院費の精算、当面の生活費など、すぐに資金が必要になることが多く、口座凍結により遺族が立替を強いられるケースが頻発していました。

この問題を解決するため、2019年7月1日に施行された改正民法(第909条の2)により「預貯金の仮払い制度」が創設されました。家庭裁判所を経由せず、相続人が単独で各金融機関に直接請求できる制度で、約40年ぶりの相続法大改正の中でも特にユーザー実益の高い改正とされています。

制度の概要

項目内容
施行日2019年(令和元年)7月1日
根拠条文民法第909条の2(平成30年7月6日改正、平成30年法律第72号)
請求主体各相続人が単独(他相続人の同意不要)
上限額1金融機関あたり「相続開始時残高×法定相続分×1/3」または150万円の低い方
請求先各金融機関の窓口(家庭裁判所を経由しない)
所要時間金融機関により1〜4週間程度
遺産分割との関係引き出した分は当該相続人の取得分から差し引かれる

上限額の計算(民法909条の2前段)

上限額は次の2つの低い方が適用されます。

  • (A) 相続開始時の預貯金債権の額 × 1/3 × 当該払戻しを行う相続人の法定相続分
  • (B) 1つの金融機関から払戻しが受けられるのは150万円まで(1金融機関内で複数口座を持っていても合計150万円が上限)

計算例

ケース口座残高相続人構成請求者(A)計算(B)上限実際の上限
例1: 配偶者+子2人、配偶者が請求1,200万円配偶者+子2配偶者(法定相続分1/2)1,200×1/2×1/3=200万150万150万円
例2: 配偶者+子2人、子が請求1,200万円配偶者+子2子(法定相続分1/4)1,200×1/4×1/3=100万150万100万円
例3: 配偶者のみ900万円配偶者のみ配偶者(法定相続分1)900×1×1/3=300万150万150万円
例4: 子3人600万円子3人のみ子1(法定相続分1/3)600×1/3×1/3≒66.7万150万約66.7万円
例5: 配偶者+子1人、B銀行残高少300万円(B銀行)配偶者+子1配偶者(法定相続分1/2)300×1/2×1/3=50万150万50万円

必要書類(共通)

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式(または法定相続情報一覧図 — 法務局で取得すれば各金融機関で繰り返し提示する手間が減る)
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 払戻しを請求する相続人の印鑑証明書(発行から3〜6か月以内が原則)
  • 払戻しを請求する相続人の本人確認書類(運転免許証等)
  • 金融機関所定の仮払い申請書(書式は金融機関による)
  • 故人の通帳・キャッシュカード(あれば)

金融機関別の運用差

金融機関申請方法所要時間特記事項
三菱UFJ銀行支店窓口で相続手続き書類一式と仮払い申請書2〜3週間Web相談予約あり
三井住友銀行支店窓口、相続オフィス対応2〜3週間Web相談予約あり
みずほ銀行支店窓口、相続センター対応2〜3週間電話相談先あり
りそな銀行支店窓口2〜3週間通常の相続手続きと同じ流れ
ゆうちょ銀行貯金窓口で「相続確認表」→ その後の必要書類提出 → 払戻し3〜4週間(2段階手続き)仮払い専用書式なし、通常相続手続きの中で出金扱い
地方銀行支店窓口、本店相続担当2〜4週間金融機関により差大、要事前確認
信用金庫・JAバンク支店窓口2〜4週間支店長権限で対応速度に差
ネット銀行電話・郵送中心、書類のやり取り多い3〜5週間実店舗がないため郵送回数が増える

実際の手続きの流れ

  1. 故人の取引銀行を特定(通帳・キャッシュカード・郵便物・カード明細から逆引き)
  2. 各金融機関に死亡の連絡(口座凍結が始まる)
  3. 戸籍謄本一式(または法定相続情報一覧図)を法務局で取得
  4. 請求者(払戻しを希望する相続人)の印鑑証明書を市区町村役場で取得
  5. 各金融機関で仮払い申請書類を入手・記入
  6. 上記必要書類を金融機関窓口に提出
  7. 金融機関の審査(1〜4週間)
  8. 請求者の口座に払戻し金額が振込まれる
  9. 領収書・使用目的を記録(遺産分割時の説明用)

150万円を超える金額が必要な場合: 家庭裁判所の仮分割

1金融機関150万円の上限を超える金額が必要な場合、家庭裁判所への「遺産分割の仮分割の仮処分」(家事事件手続法第200条第3項)を申し立てる方法があります。家裁経由の場合、上限金額の法定枠はなくなりますが、(1) 遺産分割の審判または調停の申立てが先に必要、(2) 他の共同相続人の利益を害しない範囲などの要件があり、(3) 申立てから決定まで数か月かかることが多いため、緊急の資金需要には民法第909条の2による仮払いが現実的です。

後の遺産分割への影響

仮払い制度で受け取った金額は、その相続人が遺産分割で取得すべき分から差し引かれます。例: 相続財産5,000万円、相続人が配偶者と子1人(法定相続分1/2ずつ)の場合、配偶者の取得分は2,500万円。配偶者が仮払いで150万円を受け取っていた場合、遺産分割で受け取るのは2,500万円 - 150万円 = 2,350万円となります。

仮払い制度を使えないケース

  • 遺言書で「特定の相続人に全財産を相続させる」と書かれている場合(他の相続人は利用不可になることがある)
  • 遺言書で第三者(法定相続人以外)に預金が遺贈されている場合
  • 金融機関が独自運用で対応していない(極めて稀)
  • 故人が定額預金・定期預金を長期間放置していてゆうちょ銀行で時効に該当する場合(払戻し自体が不可)
  • 相続放棄をした相続人が請求した場合(放棄により相続人ではないため)

実務的なコツ

  • 戸籍取り寄せの手間を1回で済ませるため、最初に法務局で「法定相続情報一覧図」を作成すると各金融機関で原本提示の手間が減る
  • 葬儀費用が150万円を超える場合、複数の金融機関を順次回って合計枠を確保する
  • ネット銀行・地方銀行は郵送回数が多くなりがちなため、急ぎの資金は都市銀行・地元金融機関から優先
  • ゆうちょ銀行は2段階手続きで時間がかかるため、急ぎでない分の払戻しに回す
  • 印鑑証明書は3〜6か月以内のものが要求されるため、複数金融機関で同時申請する場合は1回で十分な枚数を取得

関連リンク

本記事で引用した民法第909条の2(e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 )および各金融機関の運用情報の最終確認日: 2026-05-18。各金融機関の必要書類・所要時間は変更される可能性があるため、最新情報は各金融機関にご確認ください。

よくある質問

仮払い制度とは何ですか
2019年7月1日に施行された民法第909条の2に基づき、遺産分割協議が成立する前でも、相続人が単独で金融機関に対して被相続人の預貯金の一部の払戻しを請求できる制度です。家庭裁判所の判断を経由せず、葬儀費用や当面の生活費を捻出するために創設されました。
いくらまで引き出せますか
「相続開始時の預貯金残高 × 法定相続分 × 1/3」と「150万円」の低い方が上限です。1つの金融機関ごとに上限が適用され、複数口座を1つの金融機関に持っていても合計150万円までです。複数の金融機関にまたがる場合は、それぞれの金融機関で別途上限が適用されます。
具体的な計算例を教えてください
例: 故人の預金1,200万円、相続人は配偶者1人・子2人の場合。配偶者の法定相続分は1/2。1,200万円 × 1/2 × 1/3 = 200万円。150万円より大きいので、上限150万円が引き出せる。子の法定相続分は各1/4。1,200万円 × 1/4 × 1/3 = 100万円。150万円より小さいので、100万円が引き出せる。
相続人全員の同意は必要ですか
民法第909条の2による仮払いは相続人単独で請求可能で、他の相続人の同意は不要です。ただし、金融機関によっては実務上、他の相続人への通知や同意確認を行う運用があります。
引き出した分は後でどう扱われますか
遺産分割協議で、引き出した相続人が取得すべき分から差し引かれます。例: 配偶者の取得分2,500万円から仮払いで受けた150万円を引いた2,350万円が遺産分割で配分されます。相続人間の公平性のため、領収書や使用目的を記録しておくことが推奨されます。
ゆうちょ銀行と都市銀行で違いはありますか
金額計算ルールは同じですが、ゆうちょ銀行は相続手続きが2段階(「相続確認表」を先に提出 → その後の書類提出 → 払戻し)で、他行より時間がかかります。また、ゆうちょ銀行には仮払い専用の申請書式がなく、通常の相続手続きと同じ書式で「全額解約」ではなく「上限金額の出金」として処理されます。
150万円より多く必要な場合は
家庭裁判所への仮分割の仮処分(家事事件手続法第200条第3項)を申し立てる方法があります。家裁経由の場合は上限金額の制約がなくなりますが、他の共同相続人の利益を害しない範囲などの要件があり、申立てから決定まで時間がかかります。緊急性が高くなければ、通常の遺産分割協議を進める方が早いことが多いです。
遺言で全財産が特定相続人に相続される場合は
遺言により、特定の相続人または法定相続人以外に預金が遺贈される場合、他の相続人は仮払い制度を利用できないことがあります。遺言書の有無と内容を先に確認してください。

出典

このページの更新日: 2026-05-18